フィリップ K ディックが好きです。最近,「暗闇のスキャナー」を読み返しました。訳がすばらしい。会話していて,だんだんと興奮してきて,言葉がスラングに変化していくところの訳がすばらしいと思います。
p173あたりから,
「最近はクソほどもコーマンきめてなくてさ,ホント,ゴムのクソほどもだぜ,もう全然どんなクソも。あんたら,心理学者とかそんなんで,おれのハンクへの果てしない報告を聞いてたんなら,ドナの扱いをどうすりゃいいのか教えてくんない?どうやって近づいたらいい?つまりさ,どうすりゃいいの?ああいうかわいいユニークでガードのかたい娘を相手にするときはさ?」
「そりゃ女によってちがうからね」とすわった助手。
「言ってんのは,ちゃんと倫理的に言い寄るってことだよ。ヤクだ酒だ飲ませて,居間の床に寝転がってるところをつっこむなんてのはなしで」とフレッド。
「花を買っておやり」と立った助手。
「え?」とフレッドは,スーツ越しに目を見開いた。
「この季節だと,かわいらしい春の花が買えるよ。そうだね,ペニーズとかKマートの苗木売り場で。ツツジなんかどうだね?」
ディックの書いたもので,最初に何を読んだのか,ブレードランナーがずいぶん昔のことですから,そのときには映画の原作を読んでいたような気がします。ただ,はっきりとおもしろいと感じた最初の本は「ヴァリス」でした。たまたま手に入った本でした。読むのにずいぶんと体力のいる本でした。
ディックの宗教体験を小説にしたものだそうで,熱心に読みました。この本を読んだ後,続編の「聖なる侵入」も読みました。何回か繰り返して読んでいますが,どんな内容か把握できない。とりあえず書いてみます。
精神に異常をきたした男(ファット)が主人公です。ファットは神の啓示をうけて,それに基づいて現在に神を探すという話,と書いてしまうとまるで中身をあらわしていないような気がしてきました。一節抜き出してみます。
…. 見かけは普通の壺だった。どっしりとして色は明るい茶,縁には青の塗料が塗られている。ステファニーは腕のいい陶工ではなかった。この壺はステファニーがはじめて轆轤でつくりだしたもののひとつ,すくなくともハイスクールの陶芸の授業でつくったものではない。当然のように,最初につくったもののひとつがファットに渡された。ステファニーとファットの関係は親密だった。ファットがうろたえると,ステファニーはハシシのパイプを吸わせ,気分を静めてやったものだ。しかしその壺はある点で普通の壺とは異なっていた。なかで神がまどろんでいたのだ。神はその壺のなかで長いあいだ,長すぎるといっていいほど,まどろんでいた。 ……
ステファニーはマリファナの売人で,ファットの近所に住むハイスクールの女生徒です。ファットはグロリアという女性を自殺で失ってから,マリファナに溺れていました。ファットはグロリアを助けるすべを知らなかったが,ステファニーは何をすれば良いかを知っていたという感じで話が進んでゆきます。
今,読み返してみても引き込まれます。